「裁判上の離婚」が認められるための要件とは
では、「裁判上の離婚」が認められる要件とはどのようなものでしょうか。民法では、次のように規定されています。
【民法第770条(裁判上の離婚)】
第1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
第2項
裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
第1項の最初の文にある「離婚の訴えを提起することができる」というのは、裁判を通じて離婚することができる、というくらいの意味にお考えいただければと思います。
また、第2項は、ある程度例外的なケースに適用されますので、いったん忘れていただきましょう。
結局、離婚の要件は、第1項の一から五(1号、2号、3号・・・、と読みます。これから先、○号という呼び方で記載します。)に規定されているもののいずれかにあたる場合、ということになります。
そうしますと、民法では、配偶者が離婚に応じていなくても離婚できるケースを、5つの類型に分けて用意しているということになります。以下、順番に見ていきましょう。
配偶者に不貞な行為があったとき(1号)
「不貞な行為」とは、「配偶者のある者が自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」(最判昭48.11.15判時728.44)と解釈されています。
「性的関係」というのは、肉体関係をともなう関係のみに限られないと多くの法律家は考えていますが、最高裁の判例では、肉体関係のあった事件ばかりが重要な判例として残っているので、それ以外の関係の場合にどうなるかは、実務的にははっきりとは言い切れないところになります。
それでも、肉体関係があったかどうか、というところに境界線を設けることが適切であるケースが非常に多いと思われますので、皆さまも、一応、そのようにお考えいただければ目安になるかと思います。
肉体関係がある場合、それが継続的か一時的なものかに限りません。また、いわゆる風俗における買春行為も「不貞な行為」にあたります。
◆例
例1 「配偶者が会社の同僚とホテルで肉体関係を持った。問いただすと、一度きりだから離婚事由にはならない、と言い返された」
大半のケースでアウトと思われます。一度きり、というのはたいてい言い訳にはなりません。
例2 「配偶者が会社の同僚とホテルで肉体関係を持った。肉体関係を持ったのは8年前で、その時気づいていたが何も言わなかった」
基本的にアウトですが、長期間何も言わなかった、という態度が、不貞行為を許していることのあらわれではないか、と考えられる場合があります。相手が許しているのであれば離婚を認める必要はない、ということになりますので、例2では、離婚が認められるかどうかはやや不透明で、実際の判断は、他のさまざまな事情によることになっていきます。
例3 「ソープランドに時々行っている。でも遊びだよ、と言っている」
当然アウトです。
例4 「キャバクラに頻繁に行っている。問いただすと、行っていない、と嘘を言われる」
ご相談で多く聞かれるケースですが、肉体関係の有無がやはり大きな目安になりますので、「不貞な行為」とまではいえない、と裁判所に判断されるケースがかなり多くなると思われます。
ただし、これ単独では1号にはあたりませんが、後程述べます5号の中で考慮される場合が通常です。
配偶者から悪意で遺棄されたとき(2号)
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務(民法752条)に違反する行為をいいます。
ただ、これだけでは分かりづらいと思いますが、2号についてはやや厳格に判断されることが多く、勝手に家を出て戻ってきてくれない、 というような場合であっても、積極的に夫婦関係を破壊するような意図まで認められない場合には、「悪意の遺棄」にはあたらない、とされることがかなりあります。
2号については、これにあたりそうな事情があってもそれだけで離婚が認められることは少なく、5号の判断要素とされることが大半だと思われます。
配偶者の生死が三年以上明らかでないとき(3号)
これは、3年以上、配偶者が生きているのかあるいは亡くなっているのかがわからない状態が、現在も引き続いていることです。
ただし、行方不明であっても生存していることだけは分かっていて、単に居場所が不明な場合にはこれにあたりません。
時々、自力でお調べになって、失踪宣告(民法30条)とは別のものなのか、とお尋ねになる方がいらっしゃいますが、確かに別のもので、必ずしも失踪宣告を受ける必要はありません。
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号)
「強度の精神病」とは、民法752条の協力扶助義務を十分果たすことができない程度の精神障害をいい、必ずしも成年後見等が必要な程度に達している必要まではない、と考えられています。
4号にも法的にさまざまな難しい問題がありますが、「回復の見込みがない」とまで言えるケースは多くはなく、あまり適用例は見当たりません。これも、どちらかというと、次の5号の考慮要素とされることが多いのではないかと思われます。
その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)
非常に抽象的で解釈の余地の広い要件です。
一応、1号から4号にあたらない場合であるものの、婚姻関係を総合的に見て、婚姻関係が破たんして婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合、と考えられています。
かなり抽象的であるうえ、実務上、おそらく最も適用される場面が広く、争いも激しい要件ですので、5号についてだけ、頁を改めてご説明したいと思います。
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